アドラー心理学では、他者貢献感を持つことが進められています。
他者貢献感とは「私は他人の役に立てている」と感じている状態のことです。
アドラーが
自分に価値があると思えるときに人は勇気を持てる
と語っているように、他者貢献感を持つことで生きる勇気、生きる活力が湧いてきて、さらなる他者貢献に踏み出せる、そしてまた勇気が得られる、という好循環が生まれます。
アドラー心理学では、苦しみから抜け出す方法は「他の人を喜ばせること」ただ1つだ、とまで言われているほど、他者貢献が重要視されているのです。
その他者への貢献をしようと思ったとき、ではどんなことが他者への貢献になるかを知ることがまた大事です。
自分がいいと思ったことでも他者への迷惑になる行為だと、関係の悪化を招いてしまい、本当の貢献感を得ることができません。
何が貢献になるか、何が相手に喜んでもらえることになるかを知るには、相手にその思いを聞かねばなりませんが、それも大変ですし、自分の能力では役に立てない、ということもあるでしょう。
そんなときに知っていただきたいのが、仏教で説かれる、誰にでも元手なしでできて、しかも大いに他者への貢献になる7つの行為です。
今回はそれらについて詳しくご紹介していきます。
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元手なしでできる7つの他者貢献「無財の七施」とは?
お釈迦様が教えられる7つの他者貢献とは、「無財の七施」のことです。『雑宝蔵経』というお経に説かれています。
「無財」とは、財(お金や財産)が無くてもできる、ということで、
「七施」は、7つの施し、7つの他者貢献、ということです。
施しと聞くと、お金や財産が無いとできないだろう、と思ってしまうのですが、仏教では、財が無くてもできる、それでいて素晴らしい施しがあると教えてられています。
それが「無財の七施」です。1つ1つ、ご紹介していきます。
①眼施(げんせ)
眼施は、眼を施すということで、優しく温かい眼差しで人に接することです。
優しい眼で接してもらえると安心できますよね。「相手から心から歓迎されている。自分はここにいてもいいんだ」と思えて、リラックスができます。
反対に、顔は笑っていても「眼が笑っていない」という表情を見ると、「この人は内心は怒っているのかな?歓迎されていないんだな」という思いが出てきて、疑心暗鬼になりますよね。
「眼は口ほどにものを言う」と昔からいわれるように、眼にはそれほどの力があるのです。できる限り温かい眼差しで人に喜んでもらえるようにしていきたいですね。
②和顔悦色施(わげんえっしょくせ)
和顔は、和やかな顔、
悦色は、悦びの色(=表情)ということで、ひと言でいうと「笑顔で人に接すること」です。
笑顔ほど、第一印象を良くするものはありません。初対面の人と話をするときも、笑顔の多い人には好印象を抱きますよね。
反対に、笑顔のない人にはあまり良い印象を持たないでしょう。
笑顔は自分の印象を良くし、相手の気持ちも明るくし、自分の気分も高揚するなど、さまざまな良い効果があります。
ただ、人に接するときに、上記でも触れた「眼が笑っていない」表情だと、マイナスな印象さえ持たれてしまいます。
ぜひ「眼施」と「和顔悦色施」を組み合わせて、人に接していきたいですね。
③言辞施(ごんじせ)
言辞施は、優しい言葉、気遣いの言葉をかけることをいいます。
「身体、大丈夫?」とか、
「あなたのおかげで助かったよ」など、
自分の体調を気遣ってくれたり、がんばりを認めてくれたりする言葉をかけてもらえると、嬉しくなりますよね。疲れも吹き飛び、もっとがんばろうという気持ちにさえなります。
優しい眼と同様に、言葉にも他者を元気にする力があります。
反対に、体調を崩してしまったり、がんばっていたりするのに誰にも声をかけられなかったら辛いですよね。
他者に心をかけ、相手の努力に注目するのは、誰にでもできることです。ぜひ、ひと言からでも声をかけていきたいですね。
④身施(しんせ)
身施とは、肉体を使って社会のために働くことであり、いわゆるボランティアのことですね。
清掃活動や、地域のお年寄りや子どもたちへの親切や触れ合いなど、奉仕活動に従事するのは身施になるでしょう。
ボランティア活動をすると、相手の方も喜ばれますが、自分自身も元気を得られます。
実際に、このような調査結果が発表されています。
24歳以上のアメリカ人2800人を対象にしたある調査において、ボランティア活動をすると一年後、幸福度、人生への満足度、自尊心が高まり、うつ病が軽減したのである。
義務感からやると逆効果になってしまいますが、自分のできるペースで身施をやっていくと、お互いに幸福感を手にできるのですね。
また、ボランティアと聞くと「自分にはそこまで大それたことはできない」と思われるかもしれませんが、日々の小さなことでも率先して行えば、それも身施といえるでしょう。
たとえば、職場での来客の対応や電話対応、家庭でのゴミ出しや備品の整理・補充など、誰にでもできるけれど、あまり率先してやる人はいないことはいろいろあります。
そういうことに、空き時間を見つけて率先してやっていければ、それも立派な身施ですね。
⑤心施(しんせ)
心施は、心を施す、ということで、心から感謝の言葉を述べることをいいます。
笑顔や気遣いの言葉と同じように、感謝をされて良く思わない人はいないでしょう。自分のやったことに対して感謝をしてもらえると、とても嬉しく、元気が出てきます。
アドラー心理学でも、勇気づけの基本は「感謝をすること」と教えられています。
ベストセラー『嫌われる勇気』にも
人は感謝の言葉を聞いたとき、自らが他者に貢献できたことを知ります
と書かれてある通り、感謝をされることで他者貢献ができたと感じられ、勇気が得られるのですね。
なぜ感謝の言葉によって勇気づけられるかというと、感謝の言葉は対等な関係(横の関係)であることを示すからです。
上から目線のほめ言葉は縦の関係を築き、結果的に相手の勇気をくじいてしまいます。反対に、横の関係から出る感謝の言葉は相手を勇気づけ、自立を促すのですね。
そして、感謝の言葉を伝えたほうも、相手を勇気づけたことで自分自身も貢献感を持ち、勇気を得ることができます。
このような好循環をぜひつくっていきたいですね。
⑥床座施(しょうざせ)
床座施は、場所や席をゆずることをいいます。
これも心がけがあれば、誰にでもできることですね。
電車やバスなどに乗ったときに、足の不自由そうな人、重い荷物を持っている人に席をゆずれば、相手は喜ばれるでしょうし、自分も貢献感が得られます。
このときに大切なのは、相手の良くない反応をなるべく気にしないことです。
席をゆずったけれどお礼を言われなかったり、それどころか「年寄り扱いするな!」と文句を言ったりする人まで、もしかしたらいるかもしれません。
そうなると、「ゆずろうとするんじゃなかった」とさえ思ってしまいますね。
しかし相手の反応はどうであれ、ゆずろうとした(実際にゆずった)精神は素晴らしいです。
「今回は断られたのはたまたまだ、また機会を見てゆずってみよう」とサラッと流してしまいましょう。
⑦房舎施(ぼうしゃせ)
最後の房舎施は、宿を施すということで、宿を乞う人に一宿一飯を与えることです。
今の時代はほとんどないと思いますが、昔は旅人が一夜の宿を乞うということがあったと思います。
それほど仲が深くない人を家に泊めるのはいろいろ気を遣わないといけなくて、いつもどおりの生活が送れなくなるので、できれば泊めたくない、というのが本音でしょう。
しかし困っている相手の立場にたって宿を提供すれば、相手も喜ばれますし、自分も役に立てたという気持ちが高まりますね。
以上が、仏教で説かれる7つの他者貢献です。
誰にでもできることとはいえ、「言うは易く、行うは難し」で、実際にやってみようと思っても、めんどうだったり恥ずかしかったりで、なかなかできないことだと思います。
しかしそこを一歩踏み出すことで、今まで得られなかった幸福感を抱き、もっとしようという気持ちになり、自分の悩みも解消していくでしょう。
ぜひご一緒に実行していきたいと思います。
まとめ
- 人に親切をして、「自分は役に立てている」と貢献感を持つことで勇気を得ることができ、さらなる他者貢献へ踏み出す、という好循環を生まれます
- 本当の貢献感を得るには、何が相手の貢献になるかを知らなくてはなりません。仏教には、元手なしで、誰にでも実行できる7つの親切(=無財の七施)が説かれています
- 無財の七施は、以下の7つです
- 眼施(優しい眼差しを向ける)
- 和顔悦色施(笑顔で接する)
- 言辞施(優しい言葉をかける)
- 身施(体を使って世のために働く)
- 心施(感謝の言葉を述べる)
- 床座施(場所や席を譲る)
- 房舎施(一宿一飯の施しをする)
引用した書籍
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