「私はこんなにがんばっているのに、尽くしているのに、どうしてわかってくれないの?!」と、相手を責めることはないでしょうか。
自分のがんばりは相手に認めてほしいものですが、承認してもらえなかったからと相手を責めては、相手との関係がより悪くなってしまいかねません。
では「認めてほしい、ほめてほしい、注目されたい」という承認欲求と、どのように付き合っていけばいいのでしょうか。
承認欲求との向き合い方を、アドラー心理学の観点からご紹介します。
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承認欲求が招く“権力争い”
「自分の努力、存在を認めてほしい、評価してもらいたい」という承認欲求は、誰にでもあるものです。
「承認欲求があるからこそ、がんばれるんじゃないか」と思う方もいるでしょう。
しかし承認欲求が満たされずに悩み、対人関係の悪化を招いている人もまた多いと感じます。
『困った時のアドラー心理学』には、以下のような問題を抱えている人について書かれていました。
ある人が同じ職場でひどく忙しくしている男性に恋をしました。
きっと食事もきちんととれないくらい忙しいのだろうから、お弁当を作っていってあげよう。
ここまではよかったのです。彼も喜んでくれました。
ところが、夕方、弁当箱をとりに行ったら、風呂敷も開けてなかったとしたらどうでしょう。
がっかりする人は多いと思います。
そうなると、頻繁にメールを送ったり電話をして注目を引こうとします。
しかし、忙しい彼はメールに返事をすることも、電話に出ることもできません。
彼女は怒り、携帯に聞くに堪えないメッセージを残しました。
(『困った時のアドラー心理学』岸見一郎著 より引用)
忙しい彼のためにお弁当を作ってあげようと彼女が思い、お弁当を作ってあげたところまではよかったのですが、その後の彼の態度と、彼女の反応が問題です。
まず彼の立場からいえば、せっかくお弁当を作ってくれたのだから、どんなに忙しいとはいえ、少しでも食べてお礼を言うべきでした。
そうしていれば、彼女がここまで怒り出すことはなかったでしょう。
では彼女の立場からすればどうでしょうか?
女性の視点からすれば、「男の対応が最悪。男が悪い。彼女は悪くないし、かわいそう」と思われるかもしれません。
しかし彼の態度は問題だとしても、メールや電話を頻繁にして、さらには聞くに堪えないメッセージまで残したら、彼はどう思うでしょうか?
自分の態度を反省するどころか、「忙しいと言っているのにこんなにメールも送ってきたり、電話もかけてきたりして、何を考えているんだ」と彼女を責める気持ちになるでしょう。
これでは関係は悪化するばかりですね。
『困った時のアドラー心理学』では、こう指摘されています。
どんなに忙しくてもメール一通出せないはずはないのだと、相手の事情を顧みず、相手を責める時、権力争いに入ってしまいます。
たしかにあなたのいうとおりだと認められても、その頃には相手の気持ちは離れて行ってしまうことになります。
(『困った時のアドラー心理学』岸見一郎著 より引用)
「私は悪くない、悪いのはあなた」と相手を責めれば“権力争い”へと突入します。
権力争いに勝利し、自分の言うとおりだと認められても、それで相手との関係は修復しません。少なくとも心は離れてしまうでしょう。
“権力争い”を避け、良好な関係を築く2つのメソッド
それでは、承認欲求が満たされずに苦しいと思うとき、相手を責めてもいけないなら、どうすればいいのでしょうか?
①「あなたメッセージ」から「私メッセージ」への変換
すぐに実行できる方法としては、「あなたが悪い、あなたがひどい」と相手を責めるではなく、自分の気持ちを伝えることです。
これは、私メッセージとかIメッセージといわれています。その反対はあなたメッセージ(YOUメッセージ)ですね。
たとえば、今回の問題のように、お弁当を作ってあげたのに、相手が食べていなかったとすると「あなたって最低!」と言いたくなります。
しかしそれはあなたメッセージであり、当然、相手を一方的に責めることになりますね。
そこで
あなたって最低! → 私は悲しかった
と変換してみてはどうでしょうか。
「私は悲しかった」と言われれば、さすがに彼も「仕事が忙しく食べる時間がほとんどなかったとはいえ、まったくなかったわけじゃない。申し訳なかったな」という思いになるかもしれません。
少なくとも、あなたメッセージを言われたときの反応とは違った反応が返ってくるでしょう。
②相手の事情を知る
「相手はなぜ自分の望むことをしてくれなかったのか、やむを得ない事情があったのでは?」と、相手の事情を知ることも大切です。
こんなことは当たり前に思われるかもしれませんが、感情的になっているとなかなかできないことですね。
「彼はどうしてお弁当に手をつけなかったのか。いつも忙しい彼だけど、今日は中でも特に忙しかった日かもしれない」とか、
あるいは「体調があまり良くなくて、そもそも食欲がなかったのかもしれない」という事情があったと考えれば、彼への言動も変わるでしょう。
「お弁当を食べてくれなくて悲しかった」と伝えた上で、
「今日は特に忙しい日だったの?」
「体調が良くなかったの?大丈夫?」
と優しく聞けば、彼も胸の内を語ってくれるのではないでしょうか。
「自分のがんばりを認めてほしい」という承認欲求を抑えて、「相手の役に立ちたい」という他者貢献感を持つことで、対人関係の悪化は避けられ、むしろ風通しの良い関係を築いていくことができます。
当事者同士では、自分の思いを率直に話すことが難しい場合もあると思います(特に上司や部下、先輩と後輩など、上下関係がある場合)。
そんなときは、相手と親しい関係にある人から、相手の事情を聞いておくのが有効ですね。
まとめ
承認欲求を完全になくし切ることはできません。
承認欲求が満たされずにイライラしたり、苦しんだりすることはこの先もずっとあると思います。
しかしそんなときは、相手を責めずに「わたしメッセージ」を伝える。そして相手の事情を知り、他者貢献感を持つ。
この2つのメソッドをぜひ活用いただければ、事情を顧みずに相手を一方的に責めるのとはまったく違った、良い結果を得ることができるでしょう。
引用した書籍
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