勉強会主宰のみなみです。
『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』という本を通して、
「私達の心のあり方や自分に対する見方・人間関係に関して 幸せになるにはどうすればいいのか」
ということについてお話ししています。
前回は、「成功するには、自分の欠点とどう向き合うか」についてご紹介しました。
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テーマ① 成功するには、自分の欠点とどう向き合うか
あなたは、将来、成功するためには何が必要と言われてきたでしょうか。
多くの親や教師は「一生懸命勉強すれば、いい人生が約束される」と言っているでしょう。
ところが、高校を主席で卒業した人の圧倒的多くは、仕事で順調に業績を重ねるものの、各分野で第一線を率いるような活躍はできていないことがわかっているそうです(ボストン・カレッジの研究者 カレン・アーノルド氏の調査による)。
高校ナンバーワンが実社会でナンバーワンになれないのは?
高校のナンバーワンが実社会でのナンバーワンにはなれない理由として、2つのことが挙げられています。
1つ目は、学力と知的能力の相関関係は必ずしも高くなく、学力が高い子が最も賢いとは限らないことです。
学力が高いとは、いわば言われたことをきちんと守って行動できる能力です。それは自己規律・真面目さ・従順さを示すものではありますが、かといって、知的能力(IQ)とは必ずしも結びつかないのですね。
2つ目は、学校で好成績をおさめるには、そのカリキュラム上、すべての科目で良い点をとる必要があります。いわばゼネラリストであることが求められます。
しかし、そのようになんでもこなせるゼネラリストは、特定分野で抜きん出ることは難しいからです。
反対に、特定の知識・技術だけを身につけたい・ほかのことには興味が持てないと思っている学生は 学校では問題視されてしまいます。
ところがひと度社会に出ると 知識・スキルの習得に専念でき、抜きん出た成果を挙げられるのですね。
この2つの理由から、ルールに従う生き方(優等生になる生き方)は、負のリスクは排除されるためにおおむね安泰でいられますが、その一方で、目覚ましい功績の芽も積んでしまう(ゆえに大きな成功も生まない)といわれています。
ひとかどの成功者になるには?
では、ひとかどの成功者になるのは、どのような人物なのかというと、リーダーという観点からは、英国首相のチャーチル氏が好例として挙げられています。
チャーチル氏は、正規のコースを経ずに指導者になった「ふるいにかけられていないリーダー」、といわれています。
ふるいにかけられていないリーダーは、既存のルールを度外視して行動するため 組織自体を壊す可能性もあります。しかしその一方で 組織の悪しき硬直性を打破して 大変革を成し遂げることもできるのです。
反対に、優等生タイプのリーダー、「ふるいにかけられたリーダー」は、それまでのルールに従い、常識的・伝統的な決定をくだしていく傾向にあります。
そのために変化・変革をもたらすことはめったにないのですね。
「ふるいにかけられていない」リーダーのユニークな資質
「ふるいにかけられていない」リーダーのユニークな資質は「増強装置」と名づけられています。
それは、日頃はネガティブな性質・欠点・毒とさえ思われているものの、特定の状況下では“最大の強み”となり得るものです(チャーチル氏でいえば「偏執的ともいえる国防意識があたります」)。
前回の記事はこちら
今回は、 チャーチル氏のほかに、最大の弱点であると思われている性質を“最大の強み”に変えて世界的な成功を収めた人物の紹介をしていきます。
成功の鍵は「増強装置」 最大の弱点を“最大の強み”に変えた偉人
グレン・グールド氏(ピアニスト)
カナダのピアニスト グレン・グールド氏は、重度の心気症(病気や細菌におびえる神経症の一種)だったといわれています。
(引用:Glenn Gould 1 – グレン・グールド – Wikipedia)
いつも手袋をはめていて、カバンいっぱいに薬を詰めて持ち歩いていたそうです。
人前で演奏することにさえも嫌悪感も示し、移動してホテルに泊まらなければならないコンサートツアーは大嫌いでした。
3割ほどの公演は取り止めにし、ときには、一度 キャンセルした後で せっかく日程を組み直した公演を再度キャンセルすることもあったそうです。
そのように変人ともいえるほどの気質がある一方、20世紀を代表するほどの偉大な音楽家でもありました。
グラミー賞(世界で最も権威ある音楽賞のひとつ)を4度受賞し、アルバムも何百万枚 売り上げたといわれています。
グールド氏の異様さの数々
さらに、グールド氏はただ病気恐怖症だったというわけではないそうです。その異様さを挙げると、
- 毎朝6時に床につき、午後に目覚める
- 登場予定の飛行機が不吉に思えると、チケットをキャンセルする
- 極度の寒がりで、夏でも冬服で過ごす
- 日用雑貨をゴミ袋に入れて持ち歩く
- フロリダでホームレスに間違われ、警察官に逮捕される
と紹介されています。
天才と称される演奏についても、その様子は異様極まりなく、グールド氏の伝記(ケビン・バッザーナ著)のなかでは
よれよれの服装で猿のように鍵盤にかがみこみ、腕を振りまわし、胴を回転させ、頭を上下に揺らしながら…
という説明がされています。
演奏の際には、床から30センチほどしかない低い椅子を使っていた、ともいわれています。浅く前のめりに座るのに具合がいいように前方に傾斜していたそうです。
この椅子は、彼の父親が折り畳み椅子の脚を切ってつくった椅子で、生涯 この椅子を使い続け、世界中どこへでも持って行ったようです。
“天才”と称される演奏は しびれるほど感動的
このような奇抜、エキセントリックな面ばかりのグールド氏ですが、演奏はしびれるほど感動的であり、アメリカの名指揮者 ジョージ・セル氏には「天才とは彼のことだ」と言わしめたほどでした。
グールド氏の演奏技能、名声、成功は、簡単に成し遂げられるものではありません(わずか12歳にして一人前のプロ演奏家たる技術を身につけていた、ともいわれています)。
ただ、その反面、人前ではぎこちなく、繊細過ぎる子どもであったため、周囲に子どもがいる環境には馴染めず、家で何年かは家庭教師についていたそうです。
もしかしたら、グールド氏は世界的なピアニストになるどころか、この世の中でやっていけない人間になっていたかもしれませんね。
彼はどうやって成功し、偉大な音楽家として名を馳せたのでしょうか。
“変人”グールド氏が世界的な名声、成功を成し遂げた理由
その理由として挙げられているのが、彼の生活環境です。幸運にも、彼はその繊細な気質に最適な環境に生まれました。
両親は、ほとんどありえないほど彼を惜しみなく支援したそうです。
具体的には、母親はひたすら息子の才能を伸ばすことに献身し、父親は彼の音楽教育に年間3000ドルを費やした、といわれています。
ちなみに、1940年当時の3000ドルは、カナダ・トロント住民の平均年収の2倍に相当するといわれていますので、相当な額といえます(現代の平均年収は約10万ドルであるため、今で換算すればとんでもない額です)。
こうした惜しみない援助と、神経症によって助長された本人の飽くなき労働意欲をもって、グールド氏の才能は開花したのでした。
その労働ぶりについては、レコーディング作業に入ると、スタジオに
- 1日16時間
- 週に100時間
もこもった、といわれています。
順調にキャリアを築いていたグールド氏でしたが、「人生の後半は自分のために生きたい」と、32歳でコンサート活動の中止を宣言し、聴衆の前から姿を消したのでした(それ以降、聴衆の前では二度と演奏をしませんでしたが、彼が望む世界を保てるスタジオでの録音はされたそうです)。
自らの奇行ぶりについて聞かれても、グールド氏は「思考や言動のすべてが人とかけ離れているとは思わない」と よく言っていたといいます。
タンポポと蘭、先端遺伝学からわかる“才能の伸ばし方”
このグールド氏の成功に関連して、蘭とタンポポについての話が展開されます。
スウェーデンでは古くから、
大半の子どもはタンポポだが、少数の子は蘭である
と言い伝えられているそうです。
タンポポは、見た目は突出して綺麗な花、とはいえませんね。その美しさに目を奪われる、ということはあまりないと思います(もちろん、綺麗なものであることには間違いありませんが)。
しかしどんな環境でもよく繁殖する、という特徴があります。そのため、わざわざ手間をかけて育てようという人はいないでしょう。
一方で、蘭はきちんと管理しなければ枯れてしまいます。けれど丁寧に世話をすれば、それは見事は花を咲かせます。
子どもたちにもそれがあてはまる、ということですね。
この言い伝えは、実は先端遺伝学にも通じることがわかっているようです。
先端遺伝学からみる、「悪い遺伝子」の正体
遺伝と聞くと、「遺伝子が原因でああなる」という話をよく聞かれるかもしれません。
そのため、私達はすぐに、「これは良い遺伝子」「これは悪い遺伝子」と、遺伝子に良い・悪いのレッテルを貼りつけます。
これを心理学者は「脆弱性ストレスモデル」と読んでいるそうです。
それは、悪い(と見なされている)遺伝子を持つ者が何か問題に遭遇すると、うつ病や不安神経症などの精神疾患を発症しやすい、というものです。
ところが実は、この説は間違っているという可能性が徐々に強まってきている、と指摘されているのです。
遺伝学の最近の研究では、「良い遺伝子」対「悪い遺伝子」というモデルが覆され、先に紹介した増強装置の概念(短所に思えるものでも、特定の状況下では最大の強みになること)に近い説が導入されつつあるのです。
それは、問題があるとされる遺伝子が、状況さえ異なれば 素晴らしい遺伝子になりうる、という考え方で、差次感受性仮説(感受性差次仮説)と呼ばれています。
ナイフという道具には、人を刺して怪我を負わせる危険な面がある一方、家族の食事のために材料を切り分けるという役立つ面もあります。
ちょうどそのように、遺伝子の良し悪しも状況次第で変わる、という考え方のことです。
例 ドーパミン受容体遺伝子「DRD4」と「DRD4‐7R」
実際の遺伝子の例でいえば、大多数の人は、正常なドーパミン受容体遺伝子であるDRD4を持っていますが、一部の人は突然変異種のDRD4‐7Rを持つといわれています。
DRD4‐7Rは、ADHDやアルコール依存症、暴力性と関連がある悪い遺伝子と見なされています。
しかし、社会心理学の研究者 アリエル・クナフォ氏が子どもを対象に行った実験では、別の可能性が示されたそうです。
クナフォ氏が行った実験とは、DRD4とDRD4‐7Rの、どちらの遺伝子の子どもが、自分から進んでほかの子とキャンディを分け合うかを見る、というものです。
通常の3歳児は、必要に迫られなければお菓子をあきらめることはありませんね。
ところが、キャンディを分け与える傾向がより強かったのは、悪いと見なされているDRD4‐7Rの遺伝子を持つ子たちだったのです。
「悪い遺伝子」を持つ子どもたちは、頼まれもしないのに、なぜほかの子にキャンディをあげたいと思ったのでしょうか。
なぜなら、DRD4‐7Rは、「悪い遺伝子」ではないから、といわれています。ナイフと同様に、DRD4‐7Rの良し悪しは状況次第で決まるのです。
DRD4‐7Rを持つ子が虐待をされたり育児放棄をされたりするなどの、過酷な環境で育つとアルコール依存症やいじめっ子になる傾向にあります。
しかし良い環境で育ったDRD4‐7R遺伝子の子たちは、通常のDRD4遺伝子を持つ子たち以上に親切になる、といわれています(先のクナフォ氏の実験では このことがよく表れています)。
つまり 同一の遺伝子が、状況次第でその特性を変えるというわけであり、まさに遺伝子レベルでも増強装置の概念が当てはまるといえます。
ほかの遺伝子にも同様の結果が見られている
DRD4遺伝子のほかにも、行動に関連する遺伝子の多くに同様の結果が見られることがわかっています。
ある種のCHRM2遺伝子を持つ10代の子は、粗悪な環境で育つと非行に走りやすい、
ところが、同じ遺伝子を持つ10代でも、良い環境で育つとトップの人物になれるといわれています。
また、5-HTTLPRという変異体遺伝子を持つ子が、支配的な親に育てられるとズルをしやすくなりますが、
優しい親に育てられると規則に従順な子になることがわかっています。
「悪い遺伝子」はない。重要なのは“環境”
大半の人はタンポポであり、どんな状況に置かれても大体は正常に開花します。
しかし一部の人は蘭、つまりはすべてのことに対して繊細で傷つきやすい遺伝子を持っています。
蘭の花は、タンポポが生えているような道端では花を咲かせることができません。
けれど温室で手入れが行き届けば(環境が整っていれば)、タンポポでは足元にも及ばないほどの美しい花を咲かせるのです。
このことについて、ライターのデビッド・ドッブズ氏はアメリカの雑誌『アトランティック』に次のように書いています。
自己破壊的かつ反社会的な行為を引き起こすなど、最も厄介な遺伝子は同時に、人類の驚異的な適応能力や進化的成功の根底をなしている。
劣悪な環境で育てば、蘭の子どもたちはうつ病患者や薬物中毒者、あるいは犯罪者になるかもしれない。
だが適正な環境で育てられれば、最も創造性に富んだ、幸せな成功者になる
絶対的に悪い遺伝子が存在するのではなく、環境が非常に重要な要素であることがわかります。
アメリカの作家 ポー・ブロンソン氏も、シリコンバレーで卓越した成果を挙げている人々についてこう語っています。
シリコンバレーの住人たちは皆、ここのシステムで独特に報われている性格的欠陥を基礎として成り立っている
性格的欠陥と思われるものでも、環境次第でそれがとてつもない強みになり得るということですね。
次回も、グールド氏以外に多く存在する、弱みを最大の強みに変えた人々を紹介していきます。
まとめ
- 最大の弱点を“最大の強み”に変えた偉人として最初に紹介されているのが、ピアニストのグレン・グールド氏です。変人ともいえる気質がある一方で、20世紀を代表する音楽家となりました
- グールド氏が世界的な成功をおさめた理由として挙げられるのが、神経症によって助長された本人の飽くなき労働意欲のほかに、両親からの惜しみない援助でした。繊細な気質に最適な環境があったことで才能は開花したのでした
- グールド氏の成功と関連が深いのが、タンポポと蘭に例えられる「良い遺伝子」と「悪い遺伝子」の正体です。最近の研究によって、一見、問題のある遺伝子も、状況さえ異なれば 素晴らしい遺伝子となり得るという考えが浸透しています
- 実際に、悪い遺伝子であると見なされていた「DRD4-7R」の遺伝子を持つ子どもが良い環境で育つと、通常の遺伝子を持つ子ども以上に親切になることがわかっています。この傾向は、行動に関連するほかの多くの遺伝子にも見られます
- 繊細な蘭の花は傷つきやすい一方で、温室で手入れが行き届けば美しい花を咲かせるように、繊細で傷つきやすい遺伝子を持つ人の環境が整っていれば、その才能を開花させるのです。ゆえに「悪い遺伝子」というものは存在しておらず、環境がより重要な要素といえるでしょう
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