勉強会主宰のみなみです。
『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』という本を通して、
「私達の心のあり方や自分に対する見方・人間関係に関して 幸せになるにはどうすればいいのか」
ということについてお話ししています。
前回は、「成功するには、自分の欠点とどう向き合うか」の中でも、特に「最大の弱点を“最大の強み”に変えた偉人」についてご紹介しました。
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テーマ① 成功するには、自分の欠点とどう向き合うか
最大の弱点を“最大の強み”に変えた偉人-成功の鍵は「増強装置」
最大の弱点を“最大の強み”に変えた偉人として最初に紹介されているのが、ピアニストのグレン・グールド氏です。
グールド氏には、毎朝6時に床について午後に目覚める、極度の寒がりで夏でも冬服で過ごす、日用雑貨をゴミ袋に入れて持ち歩くなど、変人ともいえる気質がある一方、
世界で最も権威ある音楽賞のひとつであるグラミー賞を4度受賞するなど、20世紀を代表する音楽家となりました。
“変人”グールド氏が世界的な成功を成し遂げた理由
グールド氏が世界的な成功をおさめた理由として挙げられるのが、神経症によって助長された本人の飽くなき労働意欲のほかに、両親からの惜しみない援助でした。
グールド氏の両親は、ほとんどありえないほど彼を惜しみなく支援し、その音楽教育の費用は年間3000ドル(当時のカナダ・トロントの平均年収の2倍に相当)であったといわれています。
繊細な気質に最適なそのような環境があったことで才能は開花したのでした。
タンポポと蘭、先端遺伝学からわかる“才能の伸ばし方”
グールド氏の成功と関連が深いのが、タンポポと蘭に例えられる「良い遺伝子」と「悪い遺伝子」の正体です。
タンポポは突出して綺麗な花、とはいえませんが、どんな環境でもよく繁殖する、という特徴があります。
一方で、蘭の花はきちんとした管理が必要です。しかし手間のかかる分、それは見事は花を咲かせます。
これは先端遺伝学にも通じており、最近の研究によって、一見、問題のある遺伝子も、環境さえ整えられていれば 素晴らしい遺伝子となり得るという考えが浸透しています(差次感受性仮説・感受性差次仮説と呼ばれています)。
実際に、「DRD4-7R」という遺伝子は、依存症や暴力性と結びつく 悪い遺伝子であると見なされていましたが、その遺伝子を持つ子どもが良い環境で育つと、通常の遺伝子を持つ子ども以上に親切になることがわかったのです(具体的には、自分の持っているキャンディを分け与える傾向が強かった、といわれています)。
この傾向は、行動に関連するほかの多くの遺伝子にも見られています。
「悪い遺伝子」はない。重要なのは“環境”
繊細な蘭の花は傷つきやすい一方で、温室で手入れが行き届けば美しい花を咲かせるように、繊細で傷つきやすい遺伝子を持つ人の環境が整っていれば、その才能を開花させるのです。
ゆえに「悪い遺伝子」というものは存在しておらず、環境がより重要な要素といえるでしょう。
前回の記事はこちら
今回も、グールド氏以外に多く存在する、弱みを最大の強みに変えた人々を紹介していきます。
最大の弱点を“最大の強み”に変えた偉人②
マイケル・フェルプス(競泳選手)
次に、弱みを最大の強みに変えた人として紹介されているのが、競泳選手のマイケル・フェルプス氏です。
フェルプス氏は肉体的に完璧であるかというと、とんでもない、といわれています。
強靭で引き締まった体をしていますが、193センチの長身にしては均整がとれていないと指摘されています。
脚が短く、胴長。両手両足は異様に大きく、両腕を水平に広げると、その幅は2メートルもあるといわれています(通常、その幅は、だいたい身長と同じくらいになるそうです)。
このような体のため、フェルプス氏はダンスがうまく踊れず、走るのも苦手です。
ところが、『ニューヨーク・タイムズ』紙の記事には、変わった特徴を持つフェルプス氏の体型こそ、驚異的な水泳選手になる条件にピタリと当てはまった、と書かれているのです。
具体的には、
- 脚が短く、胴長 ⇒ まるでカヌーのような体
- 異様に大きな両手両足 ⇒ ヒレとして申し分ない
- 身長を超える両腕の幅 ⇒ 長い腕により、強力なストロークが生み出せる
と挙げられています。
そのフェルプス氏は15歳でオリンピックチームに参加しました。これは、1932年以来 最年少の選手だったといわれています。
この、水中を上手に移動することに長けた体を持つ怪物は、「有望」なんてものではなく、オリンピック史上最大のメダルを獲得するに至りました(オリンピックでのメダル通算獲得数28個、金メダル通算獲得数23個、ともに歴代1位の記録)。
大成功をおさめる人々の共通点は「有望な怪物」と「理想的な環境」
このフェルプス氏の成功と、アスリート以外の人びととの成功には、どのような関連があるのでしょうか。
これについて、研究者のウェンディ・ジョンソン氏と、トーマス・J・ブシャール・ジュニア氏は、
世にいう天才とは「有望な怪物」なのではないか
と示唆しています。
マイケル・フェルプス氏は水中以外では機敏に動けず、
グレン・グールド氏は上流社会ではやっていくことは難しいです。
しかし二人とも、理想的な環境を得たからこそ、その才能を見事に開花させました。理想的な環境を得たことによって発揮できる力は群を抜いていたのです。
蘭の花は、劣悪な環境ではしおれてしまいますが、適正な環境では開花し、美しい花を咲かせます。
なぜ怪物の一部は有望となり、ほかの怪物は望みなしに終わってしまうのでしょうか。
なぜ一部の人は才能ある変人となり、ほかの者はただの変人で終わるのか。
その鍵は“環境”にあるのですね。
このことについて、カリフォルニア大学の心理学教授 ディーン・キース・サイモントン氏によれば、
創造性に富んだ天才が性格検査を受けると、精神病質(サイコパシー)の数値が中間域を示す。
つまり、創造的天才たちは通常の人よりサイコパス的な傾向を示すが、その度合いは精神障害者よりは軽度である。
彼らは適度な変人度を持つようだ。
と語っています。
サイコパシーの数値があまりにも高ければ 社会で生活していくには困難ですが、サイコパス的な傾向が軽度な度合いであれば 日常である程度は支障をきたすことがあっても、環境が整っていれば その才能を発揮できるのですね。
私達はとかく ものごとに「良い」「悪い」のレッテルを貼りたがります。しかし実際には、それらは「異なる」だけなのだと指摘されています。
イスラエル国防軍が編成した“うってつけの人材”部隊
さらにこのことに関して、イスラエル国防軍が、衛星写真の情報を分析する専門部隊を編成することになったときの話が紹介されていました。
その部隊の任務では、1日中 同じ場所を見続けること、そのうえ微細な変化も見逃さないことが求められます。
そのため、部隊の編成にあたっては、超人的な視認技術を有し、同じ場所を見続けても飽きず、わずなか変化も見逃すことのない兵士が望まれました。
厳しい任務といえるでしょう。そんな任務に耐えうる人はいるのでしょうか。
これについて、同軍は意外なところからうってつけの人材を確保したそうです。
それは、自閉症と診断された人びとでした。
自閉症の人は対人関係に困難を抱えていますが、その多くはパズルなどの視覚的作業に秀でている、といわれています。
彼らは、自分たちも国防に役立つ有用な人材であることを証明したのでした。
これも、環境次第で素晴らしい才能が発揮されうる例ですね。
「最良」になるのに時間を使うな!スペシャリストになるための必須の要素
神経科学者のデビッド・ウィークス博士は、
変わり者の人びと(先のフェルプス氏や、前回紹介したグールド氏など)は社会的進化の変異種であり、自然選択に関して理論的な資料を提供している。
と語っています。
私たちは「最良(優秀なゼネラリスト)」になろうとしてあまりに多くの時間を費やしていますが、多くの場合、「最良」とはたんに世間並み、ということです。
ゆえに 卓越した人(スペシャリスト)になるには、一風変わった(サイコパス的な傾向にある)人間になるべき、といわれています。
そのためには、世間一般の尺度に従っていてはいけません(学校の成績さえよければいい、というものではないということですね)。
そもそも世間は、自分たちが本当は何を求めているかを必ずしも知りません(インサイト、と呼ばれるものです)。
世間の尺度に合わせていては、既存のものを改良することはできても、世を変化させるほどの革新的なものは生み出せないでしょう。
むしろ、あなたなりの一番の個性こそ、真の「最良(世の中が本当に求めていたものを生み出す可能性)」を意味するのです。
イギリスの政治哲学者 ジョン・スチュアート・ミルはかつて
変わり者になることを厭わない者があまりにも少ないこと、それこそがわれらの時代の根本的な危機なのだ。
と嘆いたそうです。
周囲を気にして、できる限り変わり者にならないように努めている人がほとんどだと思いますが、適した環境さえ与えられれば 悪い遺伝子が良い遺伝子になり、変わり者が美しい花を咲かせる(前々回で紹介した英国元首相 チャーチル氏のように、その時代の危機を救う存在にさえもなれる)のです。
最大の弱点を“最大の強み”に変えた組織
「ピクサー」といえば、今もなおヒット作を生み出し続けているアニメーション制作会社ですね。
1990年代には『トイ・ストーリー』や『バグズライフ』、『トイ・ストーリー2』などが立て続けに大ヒットしました。
ところが、その成功とともに創造性の象徴である同社のチームの規模が膨れあがったため、当時のCEOであったスティーブ・ジョブズ氏をはじめとする幹部たちに「ピクサーは勢いを失い、自己満足に陥っていくのではないか」という恐れが生じていました。
幹部たちは、チームを再び活性化するために、ワーナーブラザーズによるアニメーション映画『アイアン・ジャイアント』の監督をつとめたブラッド・バード氏を次なる大事業の監督として迎え入れることにしたのです。
ジョブズ氏や企業幹部らは、バード氏なら、ピクサーの活力を蘇らせてくれると見込みました。
バード氏はこの創造性の危機に取り組む際、これまでピクサーの名声を築いたアーティスト、クリエーターたちの力を借りたのでしょうか。
それとも、新風を吹き込むために外部のトップ・アーティスト、トップ・クリエーターたちをメンバーに加えたのでしょうか。
実は、そのどちらでもありませんでした。安全策をとったり、「ふるいにかけられた」才能を引き抜いたりするときではなかったのです。
そうすることで一応の成功をおさめることはできても、チームの再活性化・行き詰まりの打開策にはならなかったでしょう。
ではバード氏はどのような対策を講じたのでしょうか。
バード氏が初のチームを立ち上げたとき、ピクサーの創造性危機に取り組む計画を次のように発表しました。
私達は“はみ出し者”を求める。
アイデアがありながら採用されずフラストレーションを抱えている者、
誰にも耳を傾けてもらえないがユニークな作業法を知る者、
今の職場を出ようと考えているすべてのアーティストたちに来てほしい。
言い換えればこうなるでしょう。
「ふるいにかけられていない」アーティストたちを求む。彼らは折り紙つきの変人だろう。だがそれこそ、私の求める人材だ。
こうした呼びかけに応じた人びとで構成されたチームを、バード氏は「ダーティ・ダズン」と呼んだそうです(ダーティ・ダズン:残留農薬の多い12品目の野菜を指します)。
このチームは、アニメ映画の製作法を一新したのみならず、組織全体の働き方を変えてしまった、といわれています。
バード氏が
僕らはブラック・シープたちに、彼らの理論を証明する機会を与え、ピクサーでの多くの作業法を変えてみた。
前作「ファインディング・ニモ」より制作費を浮かせることができたので、僕らは三倍のセットを使って、前作ではやれなかったことをすべて試してみた。
それもこれも、ピクサーのお偉方が僕らのやりたい放題にさせてくれたから実現したんだ。
と語る、そのプロジェクトとは、アカデミー長編アニメ賞を受賞した『Mr.インクレディブル』です。
それは、ピクサーに6億ドルの興行収入をもたらすこととなりました。
問題点と素晴らしい特性は紙一重。あなたの欠点が世界を変えうる
これまで見てきましたように、自分にとって悪夢のような特性は、世界を変えるような強みにもなりえます。
調査によると、並外れてクリエイティブな人間とは、 傲慢で誠実性に欠け、支離滅裂であるそうです。学校での成績も振るいません。
教師たちも、正直なところ、そのようなクリエイティブな生徒は言いつけを守らないことが多いため、苦手としています。
仮に自分が企業の取締役だったとすると、傲慢で誠実性に欠ける、支離滅裂な人間がほしいと思うでしょうか。
絶対にごめんだ、と思うでしょう。
創造性に富んだ社員ほど、勤務評価が低くなる傾向にあるそうですが、クリエイティブな人間の特性を見れば それも不思議なことではありませんね。
創造的な人間は 企業の最高経営責任者(CEO)にもなりにくい、といわれています。
しかし、数学で平均値はくせものとされているように、
平均的な人間、「おおむね良い」者は、ここぞという場面で使い物にならない、と指摘されています。
1年のうち8ヶ月間はちょうど良い上着を厳寒期に来たら風邪をひくようなものです。
概して、類まれな状況で適応できるのは、平均値から外れている者です。一般には歓迎されないものの増強装置となりうる資質は、特殊な状況で本領を発揮するのですね。
人間社会で切り捨てられがちな増強装置
人間社会ではほぼ普遍的に、最悪のものをふるいにかけて取り除き、平均値を上げようとする傾向になります。
成績不振の学生や勤務評価の悪い社員はその是正が求められ、応じられない場合は退学や解雇予告にもつながりますね。
しかし、そのような人を切り捨てることは、実は素晴らしい資質と不可分一体の特性を切り捨てることにもなりかねない、と指摘されています。
その例として挙げられているのが、しばしば議論される創造性と精神障害の関係です。
心理学者のディーン・キース・サイモントン氏は、その研究『狂気と天才のパラドクス』で、ほどほどクリエイティブな人間は平均的な人より精神面で健康だが、並外れて創造的な人間は、精神障害を発症する確率が高いと明らかにしました。
先の リーダーに関する「ふるい」の理論で見たように、成功を極めるには、一般社会では問題視されるような特性を持つことも必要といえるのですね。
このことは、さまざまな障害と才能の関係においても見ることができます。
例えば、注意欠陥障害(ADD)の兆候を示す人びとは、創造性に優れることが調査によって示されているそうです。
心理学者のポール・ピアソン氏の調査によっても、ユーモアのセンス、神経症的傾向、サイコパシーが関連し合っていることが発見されています。
さらに衝動性といえば、暴力や犯罪といった文脈で挙げられることが多いネガティブに思われている特性ですが、これもまた創造性と結びついていることがわかっているそうです。
先でも想定したように、仮にあなたが経営者だったとして、サイコパスを雇いたいとは思わないでしょう。
しかもサイコパスは概して業績も振るわないことが調査でも示されているそうです。
そんなことを聞かされたら、ますます雇おうとは思いませんよね。
しかし、これには続きがあります。
サイコパスに関するほとんどの研究はここまでで終わっていますが、『卓越したアーティストの人格的特性』と題する研究では、創造的分野で大成功しているアーティストは、活躍がそれほどでもないアーティストに比べて、サイコパシー傾向が著しく高い数値を示すことが証明されたそうです。
また別の研究でも、功績が華々しい大統領は、サイコパシーの度合いが高いとされています。
成功者に共通して見られる、情熱という名の“強迫観念”
成功者の特性は好意的に解釈されがちなので、増強装置はポジティブな資質としてまかり通ることも多いです。
貧乏人なら頭がおかしいと言われ、金持ちなら物好きだと言われる
という古いジョークもそれを示唆しています。
強迫観念のような特性も、成功者に対してはポジティブに捉えられ、それ以外の場合はネガティブに捉えられます。
「専門家」や「専門的技能」といった言葉を聞くと、私達は「専心」や「情熱」といった肯定的な概念を連想しますね。
けれど、本質的に重要でないことにそこまで時間をかけて打ち込む好意には、必ず強迫観念の要素が含まれているのです。
強迫観念にとり憑かれた創造的人間は、偏執的ともいえる熱意を持って目標に取り組み、成功を収めるのですね。
この増強装置の概念は、個人の芸術的才能や運動などの専門的技能といった分野にのみ当てはまるわけではない、ともいわれています。
次回は、一般社会にも関係する「増強装置」について見ていきます。
まとめ
- 五輪史上最大のメダルを獲得した競泳選手のマイケル・フェルプス氏は、脚が短くて胴長、両手両足は異様に大きいなどの特徴があり、完璧な肉体の持ち主というわけではありませんでした。しかしその体型こそ、驚異的な水泳選手になる条件にピタリと当てはまっていたのです
- 世にいう天才、大成功者に共通するのは、「怪物」的な要素(フェルプス氏でいえば水中で機敏に動けるのに適した体、創造性に富んだ天才でいえば ややサイコパス的な傾向)を持っていることです。理想的な環境が得られれば、群を抜く力を発揮し、その才能を開花させるのです
- 環境次第で素晴らしい才能を発揮させる例としては、自閉症と診断された人びとが、イスラエル国防軍の衛星写真 情報分析 専門部隊に登用されたことも挙げられていました
- 私達は最良になることに多くの時間を費やしていますが、卓越した人になるには、一風変わった人間になる努力も必要(すでに一風変わっている人であれば、その変人度を矯正しない)です。世間の尺度に合わせていても、世を変えるほどの革新的なものは生み出せないのです
- 会社組織を革新的なものに変えたければ、ブラッド・バード氏がピクサーで行った「ふるいにかけられていない」変人たちでチームを構成をするようなアプローチが求められます
- 会社でいえば、勤務評価の低い社員にはその是正を求め、改善しなければ取り除こうとしがちです。しかしそういった人こそ、組織を革新させるクリエイティブな人間である傾向にあります
- このことは、注意欠陥障害の兆候を示す人びとは創造性に優れている、創造的分野で大成功しているアーティストほどサイコパシー傾向が著しく高い数値を示す、などの調査で裏づけされています
- 成功者と聞くと、その特性は何もかも好意的に解釈されがちです。しかしそういった成功者ほど、とり憑かれたように仕事をし、偏執的ともいえるほどの熱意で目標に取り組むなど、強迫観念の要素が含まれているのです
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