アドラー心理学は、「“常識へのアンチテーゼ”の側面もある」といわれています。
常識だと思っていたことは、実は、幸せな人生を送る上で障害になっている、だからその考えをやめたほういい、とアドラー心理学では指摘しているところが多くあります。
そのアンチテーゼの1つが「トラウマの否定」です。
ベストセラー『嫌われる勇気』を読んでまず驚くのが、アドラー心理学がトラウマを否定していることでしょう。
- なぜアドラー心理学ではトラウマを否定しているのか?
- そもそもトラウマの定義とは何か?
- トラウマを認めると、どんなデメリットがあるのか?
など、トラウマに関する疑問点と、トラウマを否定することで幸せになれる生き方をお話ししていきます。
記事の内容を動画でもご紹介しています
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「トラウマにより自らが決定される」という原因論
まず、トラウマとは、「過去に受けた心的外傷」のことです。
心的外傷とは具体的には、虐待、犯罪や事故、いじめ、暴力などが挙げられます。
トラウマといえば、著作で多く使われていることからフロイトというイメージが強いですね。
フロイトの主張は、大雑把に言ってしまえば、
トラウマによって私達の行動が決定づけられる
というものです。
このような考え方は「原因論」や「決定論」といわれますね。
たとえば、
- 彼が引きこもりになってしまったのは、過去に受けたいじめが原因だ
- 彼女が恋愛に非常に臆病なのは、過去にひどい振られ方をしたからだ
などが挙げられると思います。
これは極端な例ですが、「過去にこういうことがあったから、私は~だ」というのは原因論的な考えといえるでしょう。
アドラーの考えは「経験に与える意味によって自らを決定する」
このように見ていくと、「過去の心的外傷によって、いまが苦しくなるのは当然だ」と思われるかもしれません。
アドラーも、過去の出来事が行動の選択にまったく影響を与えない、とは言ってはいません。過去の出来事や環境も、私達の行動にいくらかの影響は与えるのです。
しかしトラウマによってすべてが決定されるかというと、決してそうではない、とアドラー心理学では原因論や決定論は否定されます。
『アドラー心理学実践入門』には、以下のように書かれています。
アドラーは、ある経験によって今の自分が決定されるという意味での決定論を否定します。
アドラーはこんなふうにいっています。
「いかなる経験も、それ自体では成功の原因でも失敗の原因でもない。
われわれは自分の経験によるショック──いわゆるトラウマ──に苦しむのではなく、経験の中から目的に適うものを見つけ出す。
自分の経験によって決定されるのではなく、経験に与える意味によって自らを決定するのである」
(「アドラー心理学実践入門」より引用)
自分の経験によるショック(トラウマ)によって苦しむのではなく、経験の中から目的に適うものを見つけ出している、経験に意味づけをして自らを決定している、とアドラーは語っています。
原因論的な考えの不便さ
「過去の経験の中から、目的に適うものを見つけ出す」とは、どんなことでしょうか?
仮に今の私が苦しい状況にあったとしましょう。
そうなると、なぜ自分はこんなに苦しい目に遭っているのか?と考えます。
そして、過去の経験の中から、その目的にかなうもの(今の自分がなぜ苦しいかを説明してくれる出来事)を選び出す、ということですね。
目的にかなうものはいろいろ見つかると思います。
親にこっぴどく叱られた、
彼(彼女)にひどい降られ方をした、
友人と大げんかをした、など。
もちろんこれらの出来事が今の自分に影響を与えていることは間違いないですが、親にこっぴどく叱られたことのみが原因で今が苦しくなることは、あり得ませんね。
それは、親にこっぴどく叱られた人は世の中にたくさんいるとはずですが、それらすべての人が今、苦しい状況にあるとは考えにくいです。
また、親に叱られたことばかりではなく、親に認められたことも何回かはあったのではないかとも思います。
親に認められたことを忘れて、叱られたことだけを覚えていて、それを苦しいことの理由にしても、都合よく解釈していると言わざるを得ません。
それに親に叱られた経験が原因で苦しくなるのであれば、その経験を無くなさない限りは苦しみから逃れられなくなってしまいます。
それでは苦しみの解決をあきらめるしかなくなってしまうのですね。
そう考えると、原因論的な考えでは幸せな人生を送ることはとても難しくなるでしょう。
“意味づけ”次第で、建設的に幸せに生きられる
私達はあらゆる経験を「意味づけ」している。誤った意味づけ、都合のよい意味づけもあれば、建設的な行動へと向かわせる意味づけもあります。
「経験そのものではなく、経験への意味づけによって自らの行動を決定する」
そのように考えれば、意味づけ次第で、トラウマで苦しむことなく、建設的に、前向きに生きていけるのですね。
「過去にこんなことがあったから、自分は苦しいんだ」ではなく、
「過去にこんなことがあったとしても、自分はいまの苦しみを乗り越えることができる。過去の出来事はいまの自分を強くしてくれるためのものだったんだ」と意味づけすれば、トラウマを力に変えることさえできるのですね。
実際に、過去の心的外傷をきっかけとして、精神的に強くなれること(心的外傷後成長、といいます)は決して珍しい事例ではなく、誰にでも起こり得ることが、心理学調査によって明らかになっています。
トラウマをそんな簡単に意味づけすることなんてできない、と言われる方もいるでしょう。深刻な心的外傷であればあるほど、前向きな意味づけは、非常に難しいと思います。
しかしあきらめることなく、時間はかかってでも前向きな意味づけをしていきたいですね。
まず大切なのは、今の自分を受け入れて、過去を振り返る勇気を得ることです。
そこから過去の出来事と向き合っていき、前向きな意味づけができれば、明るい未来を切り開くことができるでしょう。
今の自分の受け入れ方、自己受容の仕方については以前にご紹介した記事をぜひご参照ください。
アドラー心理学の目的である「自立した生き方」を実現するには、まずは原因論的な考え方からは脱却しなければなりません。
だからアドラーは「ある経験によって今の自分が決定される、という意味での決定論」を否定したのですね。
まとめ
- トラウマとは、過去に受けた心的外傷のことであり、その「トラウマによって私達の行動が決定づけられる」という考えを原因論といいます
- 対してアドラーは、ある経験によって今の自分が決定されるという意味での決定論を否定し、経験への意味づけによって自らを決定していることを唱えました
- 原因論的な考えでは、経験を無なくさなければ苦しみは解決できないことになり、不便な生き方となってしまいます
- アドラーの目的論の考えに従い、まず今の自分を受け入れられれば、トラウマへの意味づけを変えることができ、建設的な・前向きな行動が可能になります
引用した書籍
アドラー心理学 実践入門—「生」「老」「病」「死」との向き合い方 (ワニ文庫)
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