勉強会主宰のみなみです。
『残酷すぎる成功法則 9割まちがえる「その常識」を科学する』という本を聞かれたことはあるでしょうか。
こちらは、アメリカで大人気のブログ“Barking Up The Wrong Tree”の執筆者であるエリック・バーカー氏によって書かれました。
日本語でのタイトルに『残酷すぎる“成功法則”』とあるように、この本は“成功法則”について書かれているのですが、成功について書かれている本は世の中にあふれていますね。
それらの本と、『残酷すぎる成功法則』とには、どのような違いがあるのでしょうか。
※成功とは、単に財をなすだけでなく、人生全般での成功・幸福を意味する、といわれています
著者のエリック・バーカー氏は、過去8年にわたって、成功の秘訣に関するさまざまな調査や研究結果を分析し、また、専門家へのインタビューを重ねてきました。
その結果、成功の秘訣とは何かについて、世間の常識や「一面だけを強調した、多くの成功法則に関する本の内容」を真っ向から覆すような答えに達したのです。
目標達成のために不可欠な要素として信じられてきたことの多くは、今や完全に間違っている、とさえ言われています。
そうした定説の誤りをあばき、最新のエビデンス(科学的な根拠)から 大成功する人と一般の人とを分けているものとは何かが紹介されているのが『残酷すぎる成功法則』です。
検証される定説については、具体的に
- 「いい人は勝てない(周囲から利用される)」のか、それとも「最後はいい人が勝つ(抜きん出た成果を挙げる)」のか
- 「あきらめたら勝者になれない」のか、それども頑固さが仇になるのか
- 自信こそが勝利を引き寄せるのか、あるいは、自信が妄想に過ぎず かえって失敗を招くときはどんなときか
- 仕事量がすべてなのか、ワーク・ライフ・バランスを考えたほうがいいのか
といったものです。
『残酷すぎる成功法則』では、それぞれの説の長所、その次に反論や矛盾点が取り上げられ、最後に私達にとって最もプラスになる結論が紹介されています。
こちらの記事では、私達の心のあり方や自分に対する見方・人間関係に関して 幸せになるにはどうすればいいのか、というテーマを特に取り上げていきたいと思います。
最初のテーマは、「成功するには、自分の欠点とどう向き合うか」についてです。
スポンサーリンク
テーマ① 成功するには、自分の欠点とどう向き合うか
あなたは、将来、成功するためには何が必要と親や学校の先生から習ったでしょうか?
「一生懸命勉強すれば、いい人生が約束される」
というようなことを言われたのではないでしょうか。
親にとっては、わが子が高校や大学の首席となることが夢であるからですね。
では、高校の首席となった人は、どんな人生を歩むのでしょうか。本当にいい人生が約束されるのでしょうか。
それについてバーカー氏は、
多くの場合、それは正しい。だが、いつもそうとは限らない。
と指摘をしています。
高校での首席者が実社会でのナンバーワンになれない理由
ボストン・カレッジの研究者であるカレン・アーノルド氏の調査によって、
1980年代、1990年代にイリノイ州の高校を首席で卒業した81人のうち、彼らの95%が大学に進学し、学部での成績平均はGPA3.6であること(2.0以下は標準以下、2.5が平均、3.5以上は非常に優秀とされています)、
さらに60%が1994年までに大学院の学位を取得、
その90%が専門的キャリアを積み、40%(高校を首席で卒業した約2割にあたります)が弁護士・医師・エンジニアなど、社会的評価の高い専門職に就いていることがわかりました。
彼らは堅実で信頼され、社会への順応性も高く、多くの人が総じて恵まれた暮らしをしていました。
これだけを見れば、多くの親の思いである「一生懸命勉強をすれば、いい人生が約束される」ということは正しいように思えますね。
しかしアーノルド氏は以下のような見解を示しています。
首席たちの多くは仕事で順調に業績を重ねるが、彼らの圧倒的多数は、それぞれの職能分野を第一線で率いるほうではない。
優等生たちは、先見の明をもってシステムを変革するというより、むしろシステム内におさまるタイプだ。
首席たちの中で、世界を変革したり、動かしたり、あるいは世界中の人々に感銘を与えたりするまでになった人はいなかったのですね。
なぜ高校でのナンバーワンは、実社会でのナンバーワンにはめったになれないのでしょうか。
それについて、2つの理由があるといわれています。
理由① 必ずしも「学校での成績が良い」=「知能が高い」ということではないから
1つ目の理由が、学校とは 言われたことをきちんとする能力に報いる場所だから、です。
言われたことをきちんと守って行動している学生は、いわば優等生としてほめられます。反対に、言うことを聞かない学生は ダメな学生という烙印を押されてしまいますね。
どれだけ言われたことに忠実であるかが見られる場所が、一般的な学校です。
しかし学力と知的能力(IQ)の相関関係は必ずしも高くない、と指摘されています。学校での成績が良いからとって、それがその人の知能そのものを表すわけではないのですね。
学校での成績は、むしろ、自己規律・真面目さ・従順さを示すのに最適な指標である、といわれています。
実際に、81人の首席たちの多くも、
自分がクラスで一番勤勉だっただけで、一番賢い子はほかにいた
と認めているそうです。
理由② ゼネラリストは“スペシャリスト”になることは難しい
2つ目の理由として、学校のカリキュラムが挙げられています。
学校のカリキュラムでは、すべての科目で良い点をとることが求められます。いわば、ゼネラリスト(広範囲にわたる知識を持つ人)に報いるもの、といえますね。
それに対して、学生の情熱や専門的知識はあまり評価がされません。
ところが、実社会ではその逆といえるのです。
高校で首席を務めた被験者たちについて、アーノルド氏はこう語っています。
彼らは仕事でも私生活でも万事そつなくこなすが、一つの領域に全身全霊で打ち込むほうではないので、特定分野で抜きんでることは難しい。
何事もそつなくこなすゼネラリストは、特定分野で抜きん出るスペシャリストになることはかなり難しいのですね。
それとは反対に、専門知識を身につけたいと思っている学生(たとえば数学の専門知識を磨きたいと思っている学生)にとっては、興味がない分野(たとえば歴史)の授業に出たり、一定の成績を取るために勉強したりする時間を強いられます。
しかしひと度社会に出れば、そのような人は特定分野でのスキルが高く評価され、ほかの分野での能力はあまり問われない仕事に就くことができ、抜きん出た成果を挙げることができるのです。
また情熱に関して、アーノルド氏は、純粋に学ぶことが好きな学生は学校で苦労するという事実を見い出した、といわれています。
情熱を注ぎたい対象があり、その分野にとびきり詳しくなることに関心がある学生にとっては、さまざなま分野の勉強を指示される学校というシステムは息が詰まってしまうからですね。
けれど、彼らもまた実社会に出れば、関心事に徹底的に情熱を傾けることが可能となります。
2つの理由から導かれる結論
学校には明確なルールがありますが、人生となると、そこまでのルールはありません。そのため、定められた道筋がない社会に出ると、優等生は勢いを失ってしまいがちです。
ハーバード大学のポジティブ心理学者 ショーン・エイカー氏の研究でも、それが裏づけられています。
エイカー氏が700人以上のアメリカの富豪の大学時代のGPAを調べたところ、「中の上」程度の2.9だったそうです。
この研究から、大学での成績とその後の人生での成功は あまり関係がないことがわかります。
ルールに従う生き方は、負のリスクは排除されるために おおむね安泰でいられますが、目覚ましい功績の芽も積んでしまうので、大きな成功は生まないのですね。
それはちょうど、車のエンジンにガバナー(調速機)をつけていることに例えられています。
調速機によって制限速度は超えないようになるので 致死的な事故に遭う可能性は大幅に減りますが、最速記録を更新することもなくなるようなものなのです。
では、ひとかどの成功者になるのは、どのような人物なのでしょうか。
ひとかどの成功者になるには?国を救った「危険人物」
その代表として最初に紹介されているのが、イギリスの首相 ウィンストン・チャーチル氏です。
(引用:Sir Winston Churchill – 19086236948 – ウィンストン・チャーチル – Wikipedia)
チャーチルという人物は、“すべてを完璧にこなす”政治家のイメージとはほど遠い人物であり、首相に選ばれたことは衝撃的な出来事であった、といわれています。
切れ者ではあったものの、その一方で偏執的で、何をしでかすかわからない危険人物と見なされていたからです。
チャーチルは26歳で英国議会議員となり、政界で順調に頭角を現したのですが、次第に国家の要職に適さない人物という評価が定着していき、60代を迎えた1930年代ともなると、その政治的キャリアは終わっていた、といわれています。
チャーチルが要職につけなかった背景には、イギリス人は、首相をうかつに選ぶことはなく、アメリカの大統領と比べて、歴代の首相は概して年長であり、適正を厳しく吟味されて選ばれていたこともありました。
チャーチルがどれほど異端の政治家であったかについて、こう説明されています。
愛国心に満ち溢れ、イギリスへの潜在脅威に対してパラノイア的な防衛意識を貫いた。ガンジーさえも危険視し、インドの自治を求める平和的な運動にも猛反対した。
“偏執的”とあったのように、チャーチルは自国を脅かすあらゆる脅威(非暴力を訴えたガンジーであっても)に対して、声高に騒ぎたてるチキン・リトル(臆病者)だったのですね。
ところが、まさにその偏執的・パラノイア・極端なまでの臆病という難点こそ、歴史上 最も尊敬される指導者の一人へと導いたのです。
彼の功績の1つとして、チャーチルはただ独り、早い段階からヒトラーの本質を見抜き、脅威と認識していたことが挙げられています。
一方で、チャーチルの前任の首相であるネヴィル・チェンバレン氏は、ヒトラーに対して「約束したら、それを守ると信じられる男」という見方で凝り固まっていたので、宥和政策(敵対するのではなく、ある程度 ドイツ側の意図を尊重しようとするもの)こそ、ナチスの台頭を抑える方策だと確信してしまっていたのです。
ここぞ、という重大な場面で、チャーチルのパラノイアが本領を発揮した場面といえるでしょう。
彼の政治家生命を危うく滅ぼしかけた チャーチルの熱狂的な国防意識が、実は第二次世界大戦前夜のイギリスにはなくてはならないものだったのですね。
ふるいにかけられたリーダー VS ふるいにかけられていないリーダー
偉大な成功者になる人物とは、頂点にたどり着くのは誰なのか、という答えを見出すために、視点を変えて「偉大なリーダーの条件とは何か」ということが紹介されていました。
そもそもリーダーという存在は必要不可欠なのかという点において、研究者の議論は
- 偉大なチームはリーダーがいてもいなくても成功をおさめる
- チームが成功するか失敗するかを決める重要な要因は、カリスマ性のあるリーダーである
という2つに分かれていたのです(それぞれの主張を裏づける研究結果が それぞれに多く残されています)。
そこに有用な指摘をした人物として、ハーバード大学ビジネススクールの研究者 ゴータム・ムクンダ氏が挙げられていました。
ムクンダ氏は、リーダーは、根本的に異なる2つのタイプに分かれることを発見しました。
1つ目のタイプは、先の英国首相 チェンバレン氏のように 政治家になる正規のコースでの昇進を重ね、定石を踏んでものごとに対応し、周囲の期待に応えるタイプ、
いわば「ふるいにかけられた」リーダーです。
2つ目のタイプは、正規のコースを経ずに指導者になった「ふるいにかけられていない」リーダーです。
例えば、
- 会社員を経ずに起業した企業家
- 前大統領の辞任や暗殺により突然大統領に就いた元副大統領
- リンカーンのように予想外の状況下でリーダーになった者
が挙げられています。
ふるいにかけられたリーダーの特徴
「ふるいにかけられた」リーダーは、その分野の頂点に就くまでに十分に審査されてきています。
そのため、トップになってからも まわりに合わせた 常識的で、伝統的な決定をくだす傾向にあります。
手法が常套的なので、個々の「ふるいにかけられた」リーダー間には、大きな差異は見られません。
リーダーがいてもいなくても、さほど影響はないとする研究結果が多く見られた理由は、ここにあるのですね。
別のリーダーに代わっても、その人が「ふるいにかけられた」リーダーであれば、チームに大きな変化が起こることはほぼ、ありません。
ふるいにかけられていないリーダーの特徴
「ふるいにかけられていない」リーダーは、システムによる審査を経てきていません。
そのため、まわりに合わせた 過去に“承認済み”の決定を下すとは限らないのです(そもそも過去に承認された決定すら知らない場合もあります)。
しかし それは同時に、変化や変革をもたらす可能性もあるということですね。
彼らはルールを度外視して行動するので、自ら率いる組織自体を壊すこともありますが、中には 少数派なもの、組織の悪しき信念体系や硬直性を打破し、大改革を成し遂げる偉大なリーダーもいるのです。
多くの研究結果に見られた、多大な影響を及ぼすリーダーとは、この「ふるいにかけられていない」リーダーなのですね。
このように、「ふるいにかけられた」リーダーは既存の組織にはさほど影響を与えず、「ふるいにかけられていない」リーダーは 良くも悪くも 組織に大きな影響を与えることがわかります。
この2種類のリーダーがいるからこそ、リーダーの必要性を示す研究結果は大きく2つに分かれていたのですね。
「ふるいにかけられていない」リーダーが持つ ユニークな資質
バーカー氏が、
「ふるいにかけられていない」リーダーはなぜインパクトが大きいのか?」
とムクンダ氏に尋ねたところ、
「ほかのリーダーと決定的に異なるユニークな資質を持つからだ」
と答えたそうです。
さらにそれは、「並外れて賢い」とか「政治的に抜け目ない」というものではない、とも言われました。
そのユニークな資質とは、日頃はネガティブな性質・欠点だと捉えられていながら、ある特殊な状況下で強みに転じるものです。
先に紹介したチャーチル氏の偏執的な国防意識はそれに該当します。
本来は行き過ぎた考えであり、毒だとさえ思われているものも、ある特定の状況下(ナチスの台頭をいかに抑えるか)では 本人の仕事ぶりを飛躍的に高めてくれるカンフル剤となり得るのですね。
ムクンダ氏は そのような資質を「増強装置(インテンシファイア)」と名づけています。
この概念こそ、あなたの“最大の弱点”を“最大の強み”に変えてくれる秘訣なのです。
次回は、実際に 最大の弱点であると思われている性質を最大の強みに変えて世界的な成功を収めている人物の紹介をしていきます。
まとめ
- 成功の秘訣とは何かについて、世間の常識や「一面だけを強調した 多くの成功法則に関する本の内容」とは異なり、膨大かつ最新のエビデンスをもとに 多角的な面から 大成功する人と一般の人とを分けているものを紹介しているのが『残酷すぎる成功法則』です
- 将来の成功について、多くの親や教師は「一生懸命勉強すれば、いい人生が約束される」といいますが、高校を首席で卒業した人の圧倒的多数は、仕事で順調に業績を重ねるものの、各分野の第一線を率いる活躍はできていないことがわかっています
- 高校のナンバーワンが実社会でのナンバーワンにはなれない理由として、以下の2つが挙げられています
- 学力と知的能力の相関関係は必ずしも高くなく、学力が高い子が最も賢いとは限らない
- なんでもそつなくこなし、学校では優秀とされるゼネラリストは、特定分野で抜きん出ることは難しい(反対に、特定の知識・技術を身につけたいと思っている学生は、ひと度社会に出ると 知識・スキルの習得に専念でき、抜きん出た成果を挙げられる)
- ひとかどの成功者になる人物とは、リーダーという観点からは、英国首相のチャーチル氏のような 正規のコースを経ずに指導者になった「ふるいにかけられていないリーダー」、といわれています。
- ふるいにかけられていないリーダーは、既存のルールを度外視して行動するため 組織自体を壊す可能性もありますが、一方で 組織の悪しき硬直性を打破して 大変革を成し遂げることもできるのです
- 一方で、ふるいにかけられたリーダーは、それまでのルールに従い、常識的・伝統的な決定をくだしていく傾向にあるため、変化・変革をもたらすことはめったにありません
- 「ふるいにかけられていない」リーダーのユニークな資質は「増強装置」と名づけられています。それは、日頃はネガティブな性質・欠点・毒とさえ思われているものの、特定の状況下では“最大の強み”となり得るものです
続きの記事はこちら
スポンサーリンク