勉強会主催の みなみ です。
「ブッダと行動心理学から学ぶ『レジリエンス(=折れない心)の鍛え方』」というテーマのワークショップの内容を続けてご紹介しています。
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「レジリエンス」を鍛えるには?-“3つのP”への対処法を学び、身につける
このテーマのワークショップでは、『OPTION B』という本の内容をメインにお話しています。
OPTION B(オプションB) 逆境、レジリエンス、そして喜び
こちらの本は、最愛のご主人であったデイブさんを亡くされたシェリル・サンドバーグさん(フェイスブックCOO)が、友人の心理学者であるアダム・グラント氏からの確かなデータにもとづくアドバイスをもとに、苦境から回復していく過程が書かれています。
挫折や苦悩からすばやく立ち直れるために欠かせないのが「レジリエンス」です。
レジリエンスは「立ち直り力」ともいわれ、レジリエンスが高ければ悲嘆からも立ち直りやすくなり、その経験を自己成長に変えることもできます
そのレジリエンスは鍛えることが可能です。レジリエンスを鍛えるときのポイントが、立ち直りを妨げる3つのP(自責化・普遍化・永続化)への対処法を正しく知り、それらを実践し、身につけることです。
前回は、永続化への対処に有効な「『考え得る最悪の事態』を想定する」ことの元にある、仏教で説かれる真理「苦諦」について詳しく見てきました。
苦諦とは「一切の生は苦なり」、人生は本質的には苦しみである、ということです。
なぜ「人生は苦なり」といえるのでしょうか。それは仏教を説かれたお釈迦様が、まだ国の太子であったころに経験したエピソード「四門出遊」からわかります。
「四門出遊」についての詳しい解説はこちら(前回の記事)
太子がカピラ城を東・南・西の門から出られたときに、それぞれ老人・病人・死人を目にされ、
「いまは若く、体も健康で、金や財産、地位を手にしていても、やがては老と病と死によって幸せは崩れ、手に入れたものもすべてこの世において、去っていかねばならない」
ということを知られました。
そして最後、北の門を出られたときに、老と病と死を超えた幸せを求める修行者を見られ、出家を決意されたというエピソードです。
いまはどれだけ恵まれても、老と病と死によって幸福は続かず、苦しみに直面する。ゆえに人生は苦なり、といわれているのですね。
シェリルさんは、この真理を受けて
老、病、死は避けることができない。この世には喜びもあるが、どんなに手を尽くしてもいつしか消えてしまう。
私たちはこの真理を受け入れるとき、苦悩が和らぐ。
といわれています。
なぜ「老、病、死は避けることができす、幸せは消えてしまう」という真理を受け入れると苦悩が和らぐ、といわれているのでしょうか。
それは、心理学の「反事実的思考」とは何かを聞かれると、より理解いただけると思います。
今回は、反事実的思考についてお話しをしていきます。
「人生は苦なり」を受け入れることで立ち直れる理由“反事実的思考”とは?
銀行に行って腕を撃たれた!この事実をあなたはどう説明しますか?
あなたが平日の日中に、銀行に行ったと想像してみてください。
中には50人ほどの客がいました。
そこへ、銃を持った強盗が入ってきて発砲したのです!
それがあなたの腕に命中しました。
この出来事をありのまま、翌日友人や同僚に話すとすると、あなたはこのことを「幸運」として話すでしょうか? それとも「不運」として話すでしょうか?
ポジティブ心理学者のショーン・エイカー氏が、エクゼクティブの研修でこの質問をされたところ、
70%が「きわめて不運な出来事」と話すと答え、30%が「非常に運がいい」と話すと答えたのです。
きわめて不運と答えた人の声
「別の時間に行くことも、別の銀行に行くこともできた。こんなできごとはめったに起こるものではない。その時間にそこに居合わせのが不運だし、おまけに撃たれたのだから、不運に決まっている!」
非常に運がいいという人の声
「腕じゃなくてもっと重要な個所を撃たれていたかもしれない。命を落としたかもしれない。だからすごく運がいい」
(なかには、このような人もいました)
「頭を撃たれたかもしれないと思えば運が良かった。それに体験談を新聞社に持ち込めば、いくらか金をもらえるかもしれない」
きわめて不運と答えた人の声 | 非常に運がいいという人 |
別の時間に行くことも、別の銀行に行くこともできた。こんなできごとはめったに起こるものではない。 | 腕じゃなくてもっと重要な個所を撃たれていたかもしれない。命を落としたかもしれない。だからすごく運がいい |
不運と答えた人も、幸福と答えた人も、同じことをしている?
上記のように反応は非常に異なりますが、実はすべての人の頭の中でまったく同じことが行われている、といわれています。
それは、すべての人の脳が反事実(実際とは異なるストーリー)をつくり出している、ということです。
私たちはこの反事実との対比で、実際に起こったことを評価し、説明しているのです(これを「反事実的思考」といわれます)
出来事を不運だととらえた人
事実 | 反事実 |
銀行で強盗に腕を撃たれた | 銀行に行って撃たれずに戻る、それが当然 |
という比較がされています。
「銀行に行って無事に用事が済ませられるのが当然」という反事実と比較すれば、「強盗に腕を撃たれた」事実は「きわめて不運」といえます。
できごとを幸運だととらえた人
事実 | 反事実 |
銀行で強盗に腕を撃たれた | 頭を撃たれて即死する。ほかにも多くの人が撃たれる |
「もしかしたら頭を撃たれて死んでいたかもしれない。ほかの人がもっと撃たれていたかもしれない」という反事実と比較すると、事実は「非常に幸運だった」といえるのですね。
このように、どのような反事実をつくり出すかによって、同じ出来事を経験したとしても、その受け止め方は大きく異なってきます。
いまの状況がポジティブに感じられる反事実を生み出し、それと現状とを比較することで、いまの状態はありがたいこと、感謝すべきことと思えるのですね。
この反事実的思考を使って、「もっと苦しい目に遭っていたかもしれない。いまの状態はとても恵まれていることなのだ」と気づければ、永続化に対処することができるでしょう。
「『考え得る最悪の事態』を想定する」ことが永続化に効果的なのは、いまの状況がありがたく感じられる反事実をつくり出しているからといえるのです。
「老・病・死は避けることができず、幸福は必ず消えてしまう。もっと苦しい状態になることもある」という事実を視野に入れ、受け入れることで、現状の苦悩が和らいで感謝の念が湧いてくる理由は、ここにあるのですね。
今回で、「ブッダと行動心理学から学ぶ『レジリエンス(=折れない心)の鍛え方』」の内容紹介は終わりです。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。ほかの心理学・仏教の紹介記事にもぜひ目を通していただければと思います。
まとめ
- 挫折・悲嘆からすばやく立ち直れる力が「レジリエンス」です。レジリエンスは、立ち直りを妨げる「3つのP」への対処法を身につけることで高められます
- 「不幸がずっと続く」という永続化への対処が、「『考え得る最悪の事態』を想定する」ことです。「人生は老・病・死を避けることはできず、幸福は消える」という事実を受け入れることで、苦悩が和らぎます
- 「人生は苦なり」を受け入れると現状に感謝できるのは、反事実的思考による効果です。現状がポジティブに感じられる、実際と異なるストーリー(=反事実)を生み出し、それと現状とを比較することで、いまの状況は当たり前ではなく非常にありがたいものと感じられるのです
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