人間の本性は“我利我利”?仏教で説かれる「貪欲」の特徴をわかりやすく解説-三毒追放3

仏教では、私たちを苦しませるものは「無明(=煩悩)」であると教えられています。

煩悩は全部で108もあるのですが、そのなかでも特に私たちを悩ませ、苦しめるものを「三毒」といいます。

三毒は

  1. (とん)
  2. (じん)
  3. (ち)

の3つで、

貪は貪欲(とんよく)、
瞋は瞋恚(しんい)、
癡は愚痴のことです。

前回は、1つ目の貪欲とはどういう心かについてご紹介しました。

前回の記事はこちら

仏教で説かれる「三毒」とは?1つ目の「貪」をわかりやすく解説-三毒追放2
「仏教を聞き学ぶ目的は何でしょうか?」と聞かれれば、 その答えは「抜苦与楽(ばっくよらく)」といえます。 仏教は人間の苦しみを抜いて、福楽(=幸福)を与えるため...

貪欲は「限りのない欲の心」のことです。

欲といっても、いろいろな欲があり、仏教では代表的な5つの欲を「五欲」といわれます。

その五欲を満たすために、私たちは一日中、動き回り、振り回されているのです。

この欲にはいくつかの特徴があります。今回はその欲の特徴を掘り下げていきます。

記事の内容を動画でもご紹介しています

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仏教で説かれる欲の特徴とは?

欲の特徴の1つ目は「キリがない」ことです。

欲を満たしたとしても、その満足感は一時的で、また欲を満たそうとします。
さらに欲はどんどん大きくなる、肥大化していくのです。

たとえば、子供のころに毎月、親からもらっていたお小遣い。

小学生のころは、月1000円もらっても満足できます。1000円もあれば駄菓子買い放題ができ、夢のようですね。

しかし今の小学生はゲームやカードをしている子がほとんどで、月1000円じゃとても満足できないと思います。
たった1000円だと、1つのゲームソフトも、1枚のレアカードも買えません。

さらに中学生や高校生になれば、なおさら1000円では満足できず、もっとお小遣いが欲しくなりますね。

また、恋愛でも同じことがいえます。

付き合い始めのころは、目と目が合うだけで幸せな気分になれたり、メールに返信が来ただけで笑顔になったりできるものです。

しかし相手との仲が深まっていくと、

「目が合うだけじゃ物足りない」
「どうしてすぐにメールに返信してくれないの?」

と、相手に対する欲求や不満が大きくなっていきます。

このように、欲は満たされても満足感は一時的、さらに欲は際限なく広まっていく、という特徴があるのです。

無限に広がる欲を満たし切れない苦しみ-「渇愛」

ドイツの哲学者であるショーペンハウアーは、人間の欲についてこう語っています。

富は海水に似ている飲めば飲むほど、のどが渇くのだ

名声についても同じことが言える

海水を飲んだなら、一瞬、喉の渇きが癒されたように感じますが、その直後に猛烈な渇きに襲われます。

「お金がほしい、名声がほしい」という欲も、ちょうど海水と同じように、満たされては渇き、満たされないことで苦しむことになるのです。

お金のことでいえば、実際にこのような調査結果が出ています。

792人の富裕層を調査した結果、「富があってもより幸せになることはなかった」と半数以上の人が証言しています

(『幸せがずっと続く12の行動習慣』ソニア・リュボミアスキー著 日本実業出版社 より引用)

富を得たとしても、それによる満足感は長続きはせず、底の知れない欲の心で苦しむことになるのですね。

この欲が満たされない苦しみのことを仏教で「渇愛(かつあい)」ともいわれます。

欲を満たさないと生きてはいけませんし、満たされたときは満足できたように感じますが、それもわずかな時間で、その後は満たされないことで苦しむ…。

これが人間の欲の実態なのですね。

欲の本性「我利我利」の恐ろしさ

さらに、欲には恐ろしい面があります。

それは本性が「我利我利(がりがり)」なのです。

我利我利とは、「我が利益、我が利益」と書くように、自分の利益のみを優先する心のことです。いわゆる自己中心的な心のことですね。

本性というのは、普段は出てこないものです。
しかし切羽詰まったとき、自分に余裕がなくなったときに、この「我利我利」の本性が顔を出すのです。

人に尽くすことがいかに大事かわかっている人であっても、いざ自分に余裕がなくなると、人のことなど構っていられなくなります。

食料の確保が困難になれば、人のものを奪いさえしてしまいますし、経済的に苦しくなれば、人からお金をだまし取ることさえやってしまいます。

名誉を得るために、ライバルを蹴落とすこともあるでしょう。

恋愛関係のもつれから相手を傷つけ、殺してしまう事件も起こるほど、欲の本性は恐ろしいものなのです。

これらはすべて、欲の本性である「我利我利」の成せる業ですね。

このように、私達は欲によって苦しみ、罪を造ってしまうことがわかります。

そして、この欲が妨げられたときに出てくるのが「瞋恚」の心です。次回は「瞋恚」について詳しくお話ししていきます。

まとめ

  • 私たちを苦しめる三毒のなかの1つが貪欲(限りのない欲の心)です。欲の特徴の1つは「キリがない」ことであり、欲は満たされても、その満足感は一時的で、際限なく広がっていきます
  • 欲が一時満たされても、満たされきれずに苦しむことを「渇愛」といわれます
  • 欲の本性は「我利我利」と教えられています。自分の利益のみを優先する心で、余裕がなくなったときに顔を出します。自分のためなら相手のものを奪ったり、相手を傷つけたり、蹴落としたりもする恐ろしい心です

続きの記事はこちら

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引用した書籍

幸せがずっと続く12の行動習慣

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この記事を書いた人
南 雄一郎

2011年 金沢大学工学部 卒業

大学では機械工学を専攻するなか、悩み解消のヒントや生きる指針を教える仏教に強い関心を持ち、仏教講演会に多数参加しました。

また大学卒業後は仏教と親和性のある心理学にも興味を持ち、独学で学びました。

現在は東京都内でライターをしながら、対人関係の悩みを解消し、自立した生き方の実現を目的とした 仏教×心理学のワークショップを開催しています。

自主開催のワークショップは累計750回以上。

2018年 新潟県キャリアセンター様主催 キャリアコンサルタント フォローアップセミナーにて講師をつとめました。

NPC法人HMC協会 認定心理カウンセラー(セルフ資格) 。

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